『万引き家族』リアルな生活感のある家の中に拍手喝采!
映画『万引き家族』を見てきました。
今の日本に蔓延する社会問題が如実に現わされ、観た人それぞれに問いかけるような内容です。
「良かった」「残念」、賛否両論の声が聞こえてきますが、個人的にはリアルな生活感のある家の中を作った美術スタッフに拍手を贈りたいです。
モノがあふれる雑然とした室内の心地よさ
主人公一家はどこにでもいる3世代家族のように見えて、実はかなりのワケあり家族。
高層マンションの谷間にぽつんと立つ古びた平屋でひっそり暮らしています。
二間続きの和室は中央にテーブルがあり、家族が集まって食事をする場所。
夜はそこに日雇い仕事の父・治役のリリーフランキーと妻・信代役の安藤サクラが布団を敷いて寝ています。
隣の和室は祖母・初枝役の樹木希林と信代の妹・亜紀役を演じる松岡茉優が寝起きする部屋。
どちらの部屋もモノがあふれ雑然としています。しかも、ほこりっぽくて汚いのです。
息子・祥太役の城桧吏の部屋は押入れの中。
襖はタバコのヤニで黄色く変色し、その周りには古新聞や空き缶、衣類、生活雑貨がゴチャゴチャと転がっています。
だけど、みんな笑顔ですごく居心地がいい。
都会の片隅でひっそりと生きる人々というイメージで作ったセットなのだと思いますが、貧しくても幸せという雰囲気がひしひしと感じられます。
恐らく、小さい時から綺麗な部屋で生活してきた人には受け入れがたい光景かもしれません。
でも、このような家で暮らしている人は少なくないのではないでしょうか。
これがリアルな日本の姿だと、私は思うのです。
生活感たっぷりで雑然とした室内から、秘密を持った家族の幸せとか、生きていく意味とか… この映画が発しているメッセージが漂って来るような気がするのです。
一人でも窮屈なカビだらけの浴槽
小さくて掃除も行き届いていない何の変哲もない浴槽ですが、親子のつながりや夫婦の関わりを深め合うかなり重要な場面で使用されています。
自分が入るには躊躇しそうなお風呂ですが、この映画ではなくてはならない雰囲気を醸し出しています。
たとえ汚れていても、そこには家族を繋ぐ幸せがあるんですよね。
私も片付けの仕事でたくさんのお宅に伺いますが、”幸せのカタチ”はひとつではないということとリンクする場面でもありました。
色々と考えさせられる映画です
2004年に発表した「誰も知らない」も観ましたが、都会の片隅で生きる人々を描くという是枝監督の視点がとても好きです。
この家族を生んだ社会的背景にもっと目を向け、自分たちは「どうあるべきか」を映画を見た人に問い掛ける作り方は、まさに是枝流。
改めて人と人との繋がりとは、家族とは、幸せとは、生きていくとは… 色々と考えさせられる映画でした。
それを一役買った美術スタッフの匠の技に感動です。